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5.肺 結 核
一 山 智 |
抗酸菌感染症であることの診断,さらに結核症と非結核性抗酸菌症の鑑別を正確かつ迅速に行うことは,治療法の選択と予後の推測に極めて重要である。多剤耐性菌の出現とその拡がりに対する危機感から,米国CDCは迅速診断の必要性を訴えている1)。
患者の基礎疾患,臨床症状,あるいは種々の画像診断といったものから,臨床医の判断によってある程度は診断が可能であるが,最終的には起炎菌を検出し,その細菌学的な同定により診断が確定する。迅速な起炎菌の決定のために,従来からの検体の塗抹・培養・同定検査に加え,最近では遺伝子検査や免疫学的検査が応用される。また,治療薬の選択のために薬剤感受性検査が行われる。
結核菌の細菌検査については,最近日本結核病学会から「新抗酸菌検査指針2000」2)が,米国胸部疾患学会(ATS)・疾病管理予防センター(CDC)・感染症学会(IDSA)合同委員会から検査診断指針3)がそれぞれ公表された。ここでは,これらを参考に結核検査について,臨床症状から確定診断に至る手順を概説する。
■臨床症状から確定診断に至る検査(図1)
発熱,咳,痰などの呼吸器症状から肺結核症を疑ったなら,以下のように検査を進め診断・治療を行う。
A.全身状態の把握と疾患の重症度を判定するための検査
胸部レントゲン検査(必要に応じてCT検査)で病巣の拡がり,空洞性病変,胸水貯留,リンパ腺腫大,粟粒性病変の有無などの評価を行う。続いて血液ガス分析,末梢血液検査,CRP,赤沈,生化学検査,尿検査を行い,全身状態を把握する。それぞれの検査の意味するところは,「4.肺炎」の項に記載されたものと同様である。
B.病原体決定に関する検査
1.検体の採取
結核症の確定診断は感染病巣からの結核菌の検出によってなされるから,検体は病巣部から正しく採取されなければならない。臨床診断は肺結核症であっても,結核菌が検出されない症例のなかには,唾液や咽頭粘液など不良検体であるためと考えられることがしばしば見られる。検体の品質管理が極めて大切である。喀痰の品質管理については「4.肺炎」に記載されているので参考にされたい。
1)喀痰:自発喀出痰あるいは誘発痰いずれであっても,起床時に強い咳とともにできれば5ml以上の喀痰を得る。連続3日間の良質検体を採る努力をする。採取時の注意点として,雑菌の混入を減らすため,早朝起床時に十分うがいをして採取する。抗結核薬で化学療法中の患者においては,開始から3週間は毎週1回の喀痰を採取し,それ以降は毎月1回検査する。十分な痰の喀出が得られないときは,3%高張食塩水20〜30ml吸入させるとよい。ただし,良質喀痰の採取が困難な場合は,唾液様検体からでも結核菌が培養されることがあるので,とりあえず検査は行っておく。
2)気管支洗浄液あるいは気管支肺胞洗浄液:抗酸菌感染症が疑われる患者で喀痰が得られない場合,気管支鏡を用いて気管支洗浄液(Bronchial washing:BW)あるいは気管支肺胞洗浄液(Broncho-alveolar lavage fluid:BALF)を採取することがある。この場合,生理食塩水で洗浄し最低5mlの回収が必要である。環境水中の非結核性抗酸菌や,気管支鏡に付着した前患者由来の結核菌の可能性があるので注意する。
3)胃液:幼児,学童,高齢者,あるいは意識障害患者において,喀痰の排出が困難な場合に胃液を採取することがある。起床時に滅菌容器に5〜10mlの胃液を採取する。喀痰と同様連続3日間の採取が望まれる。胃液中には環境や食物由来の非結核性抗酸菌が存在することが多いため,塗抹検査陽性であっても遺伝子増幅検査あるいは培養後の菌種同定検査が必須である。
4)血液:AIDS患者においては末梢血液中のCD4数が100/mlを切ると,M. avium complexによる全身幡種性感染症を来たす例が多くみられるため,血液培養検査が必要である。血液に低張水(滅菌蒸留水)を加え血液細胞を破壊し,その沈渣を抗酸菌培養用の液体培地に接種してもよいが,培地中に血液細胞溶解試薬(サポニン)を含んだ血液検体用抗酸菌培養ボトルでは,3〜5mlの血液をそのまま接種すればよい。
5)尿:尿路結核症が疑われる患者では,起床時に陰部尿道口をアルコールで清拭の後,最低40〜50mlの中間尿を滅菌容器に採取する。
6)便:AIDS患者においてM. avium complexの検出を目的に検査が行われる。約1g以上の便を滅菌容器に採取する。もし,M. avium complexの培養が陽性であれば,全身幡種性感染症を疑う。
7)体腔液:本来無菌的材料である髄液,胸水,腹水,心嚢水などを慎重に無菌的に採取する。髄液では最低2ml,胸水,腹水,心嚢水では最低20mlが必要である。沈渣を抗酸菌培養用の液体培地に接種するが,もし検体量が少量であれば直接接種してもよい。
8)組織:リンパ腺,皮膚,その他の生検組織を無菌的に採取し滅菌容器に入れ,そのまま検査室に移送する。組織をホルマリン固定してはならない。
2.検体の塗抹検査
検体の品質管理で良質喀痰であることを確認した後,カーボンフクシン染色(Ziehl-Neelsen染色またはKinyoun染色)あるいは螢光染色で塗抹検査を行う。螢光染色法で陽性の場合は,Ziehl-Neelsen染色またはKinyoun染色で陽性を確認する。
塗抹標本は膿性部分を一白金耳採り薄く塗抹して作成する。米国では検出感度を高めるために,CDCの推奨するN-アセチル-L-システイン・水酸化ナトリウム(NALC-NaOH)処理によって材料を均質化の後,遠心集菌し塗抹する方法が標準法となっている。我が国の新しい指針においても集菌法を推奨しており,結果は表1のように報告される。なお,塗抹染色所見での菌体の形態の違いから菌種を推測することは不可能である。
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記載法 |
螢光法 (200倍) |
チール・ネールゼン法 (1000倍) |
備考* (ガフギー号数) |
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− |
0/30視野 |
0/300視野 |
G0 |
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± |
1〜2/30視野 |
1〜2/300視野 |
G1 |
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1+ |
2〜20/10視野 |
1〜9/100視野 |
G2 |
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2+ |
≧20/10視野 |
≧10/100視野 |
G5 |
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3+ |
≧100/1視野 |
≧10/1視野 |
G9 |
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*担当するガフギー号数 |
(文献2より引用) |
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3.検体の培養検査
すべての検体において培養検査は必須である。培地は大別して卵培地(小川培地またはLowenstein-Jense培地),寒天培地(Middlebrook 7H10または7H11培地),および液体培地がある。我国では従来より小川培地を用いてきたが,最近,高感度で迅速な培養法を目的として,液体培地による方法が開発されて臨床応用されるようになった。非RIのSeptiChek AFB (Becton Dickinson),MGIT(Becton Dickinson),BACTEC 9000MB(Becton Dickinson),MB/BacT (Organon Teknika)などがある。
ただし,固形培地では発育コロニーの形状が観察されること,M. tuberculosisとM. avium complexの混合感染を指摘できること,液体培地での発育が不良な抗酸菌を検出できること,液体培地の汚染時のバックアップなどの理由で,新指針では固形培地を最低一本併用することを勧めている。
4.遺伝子増幅検査
抗酸菌検出のための遺伝子増幅法のなかで,RNA増幅法によるAmplified Mycobacterium Tuberculosis Direct Test(MTD),PCR法によるAmplicor Myco-bacterium,およびLCR法によるLCX-M.ツベルクローシス・ダイナジーンが,我国で保険適応になっている。MTDとLCXはM. tuberculosis complexを,Amplicor MycobacteriumはM. tuberculosis complexのほかM. aviumとM. intracellulareも検出・同定できる。これらの遺伝子増幅検査の検出感度は約70%,特異度は96%以上である。ただし,検出感度は塗抹陽性検体では約95%であるが,塗抹陰性の検体についてみると40〜70%である。そのため,これらの遺伝子増幅検査は塗抹陽性検体と,塗抹陰性検体でも臨床的に結核症が強く疑われた場合に使用すべきであろうと考えられる。治療経過中では喀痰中に死菌が存在するため,培養陰性・遺伝子増幅陽性の結果がみられる。
5.抗酸菌の同定
抗酸菌属は結核菌群と非結核性抗酸菌群に大別される。前者のうち主要なものはM. tuberuculosisで,後者ではM. avium,M. Intracellurale,およびM. kansasiiである。これらの鑑別は,DNAプローブ法による迅速同定検査が広く行われている。我が国では,抗酸菌特異的リボゾームRNA塩基配列に基づくアキュプローブ法(Gen-Probe社)と菌ゲノムDNAのハイブリダイゼーションに基づくDDHマイコバクテリア法(極東製薬)が用いられる。前者はM. tuberuculosis complex,M. avium complexを,後者はM. tuberuculosis complex,M. avium,M. intracelluraleなど18菌種の同定が一枚のプレートで可能である。また最近では,M. tuberuculosis が産生する分泌蛋白(MPB64)抗原を検出する方法が開発され(Becton Dickinson),簡便に用いることができる。ただし,本検査はM. tuberuculosis のみの同定が可能である。
6.薬剤感受性検査
我が国の新指針では小川培地を用いた比率法(proportion method)が採用された。それぞれの薬剤の感受性試験濃度を表2に示す。INHについては試験濃度を2濃度設定しているが,通常の治療には0.2mg/mlを参考にし,1.0mg/mlは多剤耐性例で使用可能な薬剤がない場合に限り参考とする。その他,液体培地や寒天培地を用いた検査法もある。小川培地では薬剤とくにRFPが卵へ吸着し正確な試験濃度が得られないという欠点を有している。したがって,RFPを用いた治療で順調に治療しているにも拘らず,小川培地を用いた検査でRFP耐性の結果であった場合,他の検査法で再検する必要がある。
7.ツベルクリン検査
一般的には,ツベルクリン反応陽性は結核既感染を意味するが,BCG接種が広範に行われている我が国では,結核感染による陽性かBCG接種による陽性かの判別は不可能である。
C.結核検査の進め方
図2に検体を採取してから診断に至るまでの効率的な抗酸菌検査手順を提案する。集菌塗抹検査が行われ,塗抹陽性の検体は直ちに遺伝子増幅検査で菌種を同定し,同時に液体培地(小川培地併用)に培養し,増菌後薬剤感受性検査へと進む。一方,塗抹陰性であれば原則的に遺伝子増幅検査は行わず,培養検査にまわされる。ただし,結核症が強く疑われる場合は,直接遺伝子増幅検査を行ってもよい。液体培養陽性となれば,培養液を塗抹検査し抗酸菌であることを確認の後,培養液からアキュプローブで法か免疫学的抗原検出法で同定する。ただし,菌量が少なく同定不能であれば,Amplicor PCRを用いてもよい(保険適応外)。
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抗結核薬 |
略号 |
試験濃度(mg/ml) |
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イソニアジド |
INH |
0.2*, 1.0 |
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リファンピシン |
RFP |
40 |
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ストレプトマイシン |
SM |
10 |
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エタンブトール |
EB |
2.5 |
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カナマイシン |
KM |
20 |
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エンビオマイシン |
EVM |
20 |
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エチオナミド |
TH |
20 |
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サイクロセリン |
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