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8.急性心筋梗塞
櫻 井 進,桑 田 志 宏,竹 中 克 |
■確定診断に要する検査(図1 : 検査の進め方)
A.確定診断
1.30分以上持続するニトログリセリンの無効な前胸部痛,2.心電図上のST上昇,3.CK(CPK),CK (CPK)-MBなどの血清酵素値の上昇,4.冠動脈支配領域に一致した左室局所壁運動異常(心エコーなど)を総合的に判断して行われる。
B.身体所見
大半の症例では,胸部苦悶,呼吸困難,ショック状態に至れば,皮膚蒼白,冷汗,悪心,嘔吐を呈するが,糖尿病・高齢者などでは無症状のこともある。また,大動脈解離,肺梗塞,心膜炎,気胸,胆石症,逆流性食道炎などとの鑑別も重要である。
C.心電図検査
経時的変化を追うことを想定し,誘導部位に印をつけ標準12誘導心電図をとる。梗塞部位・範囲の推定(表1),不整脈のチェックを行う。急性心筋梗塞典型例では,まずT波増高が起こり,ST上昇があり,やや遅れて異常Q波が出現し,STの回復とともに陰性T波および冠性T波が出現する(図2)。また,不整脈の心電図モニターは必須でCCU等で厳重な経過観察が必要である。心筋梗塞の超急性期には,T波の増高しか見られないため,心エコー検査で壁運動異常を検出し診断する。心筋壊死を示すとされる異常Q波は,1.持続時間は0.04秒以上,2.異常Q波の誘導ではR波が小さく,3.伝導異常(WPW症候群,脚ブロック,心筋症,ペースメーカー植え込み,陳旧性心筋梗塞など)のあるときは梗塞の診断は不可能であり,4.後壁および側壁梗塞は診断が困難である,などの特徴がある。下壁梗塞症例で右室梗塞が疑われる場合には,右胸部誘導をとるとともに,房室結節の虚血による徐脈に注意する。臨床的には心筋梗塞発症6〜10時間以内にV4Rにおいて,1mm以上のST上昇があれば右室梗塞の可能性が高い。
D.血液検査
心筋梗塞に特徴的な検査項目とその推移を示す(表2)。これらの測定値の評価は,早期診断,発症時期の特定および梗塞量の推定ならびに再疎通の判定に有用である。逸脱酵素のピークは分子量の小さい順にくる。本症早期にミオグロビン値は上昇するため,早期診断に適し,さらに再疎通評価にも優れている。CKのピーク値は梗塞巣の大きさ(心筋壊死量)を反映する。CK-MBは,心筋に多く含まれることから,CK値上昇を伴うと,心筋障害の診断が確定的である。AST(GOT)値の出現はCKとLDのほぼ中間であり,一旦,発症時期が特定されれば省略することも可能である。LD値は発症晩期の指標として有用である。細胞代謝障害により,細胞崩壊がはじまると筋原線維から構造蛋白であるトロポニンTおよびミオシン軽鎖1が逸脱する。トロポニンT値は,発症後ゆるやかに上昇を示すため,発症後数日経て入院した例であっても急性心筋梗塞の診断が可能である。また,心筋特異性が高く診断精度で優れる。ミオグロビンは,CKより早く遊出し早く消退するが,骨格筋に多く含まれており,特異度が低く,重症度との関連も低い。なお,血清中の逸脱酵素値の上昇は身体所見の発現や心電図変化に比べ数時間以上は遅れる。
E.心エコー検査
左室壁運動異常部位は,梗塞巣とほぼ同一なので部位の特定とその程度の評価が重要である。この壁運動異常は,心電図変化に先行して認められるため,超急性期でも診断に有用である。また,心電図での診断が困難な後壁,側壁および右室梗塞の診断が可能である。慢性化するに従い,梗塞部位での内壁の輝度増強や壊死に伴う壁厚減少が認められるため,心筋虚血が急性期なのか慢性期であるのかの診断も可能である。
G.緊急冠動脈造影
適応は,1.発症後24時間以内(それ以降であれば待機的に施行),2.重篤な他臓器障害がない,3.冠動脈造影後に経皮的冠動脈内血栓溶解療法,または,経皮的冠動脈形成術などを行うことが出来ること(冠動脈造影のみの施行は危険である。冠動脈造影の設備のない施設では,経静注的血栓溶解療法を選択する)。
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梗塞部位 |
I |
II |
III |
aVR |
aVL |
aVF |
V1 |
V2 |
V3 |
V4 |
V5 |
V6 |
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前壁中隔 |
○ |
○ |
○ |
○ |
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前壁 |
○ |
○ |
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側壁 |
○ |
○ |
○ |
○ |
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高位側壁 |
○ |
○ |
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前側壁 |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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広範囲前壁 |
○ |
○ |
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○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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下壁 |
○ |
○ |
○ |
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後壁 |
△ |
△ |
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右室 |
下壁梗塞像のほかに,V1,V3R〜V6RでST↑,Q波がみられる。 |
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△: R波の増高がみられる。 |
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■急性心筋梗塞患者のフォローアップ中の検査項目と頻度(表3)
各種処置(経皮的冠動脈形成術,血栓溶解療法)後は,変化が著しいので急性期より頻繁に各種検査を行う。
血液検査 : CK,CK-MBは,3時間ごとに測定し最高値を求める。この最高値およびそこに至るまでの時間で梗塞巣の大きさを推定する。積極的に血管形成術を施行し成功した場合は,保存的に形成術などを施行しない場合に比べ,CK,CK-MBの最高値は高く,最高値にいたるまでの時間は短い。
心エコー検査 : 短時間に簡便に行えるベッドサイド検査として有用である。すなわち,壁運動異常の観察以外にも,弁膜症,心嚢液貯留,心腔内血栓,心室壁破裂など,種々の合併症の診断なども可能である。
右心カテーテル検査 : 心筋梗塞に合併する心不全の重症度判定によく用いられるKillip分類(表4)でIII度以上の重症例では,Swan-Ganzカテーテルを挿入する。
また,発症時にII度以下でも重症化が予想される場合には挿入することが望ましく,得られた肺動脈楔入圧および心係数からForrester分類により治療方針を決定する(図3)。
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入院病日 |
1日 |
2日 |
3日 |
4日 |
5日 |
6日 |
7日 |
備考 |
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心電図モニタ |
常時 |
常時 |
常時 |
常時 |
常時 |
常時 |
常時 |
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血圧・脈拍・呼吸 |
24回/日 |
8回/日 |
6回/日 |
6回/日 |
4回/日 |
4回/日 |
2回/日 |
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聴診・身体所見 |
12回/日 |
6回/日 |
4回/日 |
4回/日 |
2回/日 |
2回/日 |
2回/日 |
|
|
尿量 |
6回/日 |
6回/日 |
2回/日 |
2回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
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|
標準12誘導心電図 |
8回/日 |
4回/日 |
2回/日 |
2回/日 |
2回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
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CK・CK-MB |
8回/日 |
4回/日 |
2回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
− |
− |
* |
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AST・LD |
4回/日 |
2回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
− |
− |
* |
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トロポニンT・ミオシン軽鎖1 |
4回/日 |
2回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
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血算・赤沈・CRP・凝固検査 |
1回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
− |
− |
− |
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胸部X線写真 |
1回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
1回/日 |
− |
− |
− |
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ホルター心電図 |
1回/日 |
1回/日 |
− |
− |
− |
− |
1回/日 |
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血液ガス |
1回/日 |
1回/日 |
− |
− |
− |
− |
− |
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心エコー |
1回/日 |
− |
1回/日 |
− |
− |
− |
1回/日 |
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心臓カテーテル |
1回/日 |
− |
− |
− |
− |
− |
− |
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心筋シンチグラム |
− |
− |
− |
− |
− |
− |
1回/日 |
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負荷心電図 |
− |
− |
− |
− |
− |
− |
1回/日 |
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*ピーク値を迎えるまで。それ以降は他の項目でフォローする。
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class |
症 状 |
死亡率(%) |
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I |
心不全徴候なし |
6 |
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II |
軽〜中等度心不全(肺野ラ音聴取域<全肺野の50%) |
17 |
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III |
肺水腫(肺野ラ音聴取域≧全肺野の50%) |
38 |
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IV |
心原性ショック |
81 |
■急性心筋梗塞患者の退院時までの検査項目と頻度
症状が快方に向かうにつれ,段階的にリハビリを開始する。我が国では2週間ないし3週間で終了するプログラムを採用することが多い。その際には,受動座位からはじめて,入浴負荷およびトレッドミル負荷試験にいたるまでの多段階運動負荷試験を行い,その結果により運動耐容能を調べ運動制限を解除していく。退院前には,負荷検査,心エコー検査などを行い,心機能,残存虚血の有無を調べ,退院後のフォローを決定する。核医学検査は急性期には行いにくい検査であるが,梗塞部位や範囲の特定およびその部位の代謝状況を把握するのに各種検査がある。例えば,201TI,99mTcピロ燐酸心筋シンチグラムは梗塞巣の検出に用いられる。心臓カテーテル検査は,血管形成術の成功度およびその後の臨床経過によっては退院前に冠動脈造影による再評価をすることがある。
■外来患者が急性心筋梗塞を発症した場合の検査
外来において,心エコーなどで急性心筋梗塞と判断された患者は,ポータブル型心電図モニタを装着し,致死性不整脈の発生に注意しながら,ストレッチャーにて心臓カテーテル室または処置室へ搬送する。静脈および尿路ライン確保,心電図その他の監視装置装着を行う。冠動脈造影の結果をもって,再疎通療法の適否およびその選択を行う。再疎通療法には,経皮的冠動脈形成術,冠動脈血栓溶解療法,冠動脈バイパス術などがある。その後の処理は,前述した通りである。
■専門医にコンサルテーションする ポイント
急性心筋梗塞では心筋を救うために時間を無駄には出来ない。急性心筋梗塞の疑いが高ければ,速やかに再疎通療法などに熟達した専門医に紹介すべきである。「循環器専門医ではないが,念のために紹介前に心エコーを記録しておこう」という態度は時間の無駄で,慎むべきである。
■入院適応のポイント
急性心筋梗塞と診断されれば,入院加療は必須である。
参考文献
1) 百村伸一 : 心筋梗塞. 内科診断検査アクセス. 日本医事新報社 : 92〜93, 1989
2) 竹内一秀 : 急性心筋梗塞. 実践臨床心臓病学(吉川純一, 松崎益徳, 編). 文光堂 : 86〜94, 1997
3) 循環器疾患診療マニュアル. 東京大学医学部附属病院循環器内科編 : 146〜156, 1999
4) ACC/AHA guidelines for the early management of patients with acute myocardial infarction. Circulation 82 : 664-707, 1990
5) 渡辺昌文, 山沖和秀 : 心筋梗塞. 臨床研修マニュアル. 金原出版 : 616〜622, 1995
(平成13年3月脱稿)