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11.胃潰瘍・十二指腸潰瘍
関塚 永一,大塩 力,細田 泰雄,宮崎 耕司,石井 裕正 |
胃潰瘍・十二指腸潰瘍患者の治療はH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬の出現により治癒率が飛躍的に改善し,急性期入院の適応例は減少してきた。また,近年慢性胃炎,消化性潰瘍,胃MALTリンパ腫,胃癌など多くの消化器疾患において,グラム陰性菌であるHelicobacter pylori(H. pylori)の関与が報告されている1)。特に胃・十二指腸潰瘍患者に対するH. pylori除菌療法は,1994年に米国NIHの「消化性潰瘍患者は初発,再発にかかわらず酸分泌抑制薬に加えてH.pyloriの除菌治療をおこなうべきである。」との勧告がで,わが国においても2000年11月1日にH. pyloriの診断と除菌療法が保険適用になり,ますますH. pylori関連疾患に対する認識の重要さが増している。
診断および病態把握のために実際の診療では,全身状態の把握,問診や診察が非常に大切である。消化性潰瘍患者では,腹痛,悪心・嘔吐,吐血・下血など多彩な症状がみられるが,なかでも特に,心窩部痛に代表される腹痛の種類,性状や程度などを問診により的確に把握する。診察にあたっては,圧痛,筋性防御などの身体的所見ばかりではなく,バイタルサインや貧血などの全身症状の把握も決して怠ってはならない。ショックの有無,出血量,貧血の状態,重症度の把握つまり入院の必要性が推測でき,他の疾患との鑑別などに利用できる。潰瘍歴,基礎疾患,非ステロイド系抗炎症剤,抗血小板薬,抗凝固薬の服用の有無などは消化性潰瘍の診断や内視鏡検査時の生検実施の可否に大変重要である。
消化性潰瘍の確定診断は上部消化管造影法や上部消化管内視鏡検査であるが,最近は入院適応が考慮されるような病態では緊急上部消化管内視鏡検査を行い,診断とともに必要があれば内視鏡下での治療も同時に施行することが多い。
図1 消化性潰瘍が疑われたときの検査のフローチャート
専門医にコンサルテーションするポイント
上部消化管造影法で診断のついた胃潰瘍でも良性・悪性の鑑別は組織検査のできる内視鏡を必ず施行し最終診断をする。最近では内視鏡がスクリーニングとして用いられることが多くなり,生検による胃癌との鑑別もルーチン化している。Borrmann 2型やIII型早期胃癌では良性潰瘍との鑑別は必要であり,胃潰瘍では全例辺縁を生検することが望ましい。出血性潰瘍でも止血後必ず再検時に生検を行う。
臨床的重症度からは,消化性潰瘍の合併症の出血や穿孔は緊急入院の適応であり,速やかな判断による治療法の選択が必要である。そのほか,狭窄や難治性潰瘍,巨大潰瘍による疼痛,悪心・嘔吐などの症状の激しい時や食事摂取不能時は,相対的な入院適応となる。
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緊急入院の適応 出血性消化性潰瘍 穿孔 |
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相対的な入院適応 狭窄 難治性潰瘍 巨大潰瘍 疼痛,悪心・嘔吐などの症状の激しい時 食事摂取不能時 |
■病態把握や鑑別診断に要する検査
来院時の消化性潰瘍の症状は,上腹部痛,吐血,下血,悪心,嘔吐,背部放散痛など多彩な症状がみられるが, これらの症状を有する他の疾患との鑑別が必要となる。病態把握や鑑別診断に要する検査としては,基本的検査のうち末梢血検査,臨床化学検査,血清検査,血液凝固検査,胸部・腹部単純X線撮影,腹部超音波検査が必要である。これらの検査を重症度に応じて組み合わせることが必要である。入院適応の消化性潰瘍の退院時までの検査を表2に示す。
1)末梢血液検査
ヘモグロビン(Hb),ヘマトクリット(Ht),赤血球数,とくにHbの減少から貧血の有無や程度を知る。血液型および不規則抗体も輸血の準備に必要である。消化性潰瘍に関連する血液疾患の鑑別にも利用できる。
2)臨床化学検査
AST,ALT,ALP,gGTなどの肝機能検査や尿素窒素,クレアチニンなどの腎機能検査は肝疾患や尿毒症などのように消化性潰瘍と関連のある基礎疾患の把握として必要であり, 肝機能や腎機能はH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬の投与量の推計に役立つ4)。尿素窒素は,上部消化管から出血した血液が腸管で吸収された結果として上昇するもので,出血後数時間で上昇し始め,24時間で最高値に達し,止血後2,3日以内に正常値に復する。また,膵疾患のアミラーゼや心筋梗塞のLD,CKは鑑別疾患に利用できる。Hbに加えて,血清総蛋白濃度(TP), アルブミン/グロブリン(A/G)比,総コレステロール(TC)から,一般状態の把握を推定する。低色素性貧血と血清鉄の低下は慢性の鉄欠乏性貧血が診断でき,鉄剤の投与を考慮する。ショック時には血清電解質の把握も大切である。
3)糞便検査
便潜血検査は明らかな出血の無い時に有効である。
4)血清検査
HBs抗原検査,HCV抗体検査,梅毒血清反応などの感染症検査は,再検時の内視鏡検査に必要である。
5)血液凝固検査
通常は出血傾向や抗凝固薬服用等の問診でチェックできると思われる。大量出血の重症例においては必要となる。血小板輸血や新鮮凍結血漿で補正しなければならない。
6)胸部・腹部単純X線撮影
胸部・腹部単純X線により,穿孔,胆石,腹水,イレウスなどの情報を得る。
7)腹部超音波検査
除外診断としての意義は大きく,急性腹症を含めた他疾患(胆石胆嚢炎,膵炎,腹部大動脈瘤,腹水など)の除外が可能となる。
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1.確定診断に要する検査 上部消化管内視鏡検査 2.病態把握や鑑別診断に要する検査 (1)血液検査: 1)RBC,Hb,Ht,赤血球恒数, 2)CRP 3)血清総蛋白濃度,A/G比,総コレステロール,中性脂肪,AST,ALT, 4)血液型,不規則抗体 (2)糞便検査:潜血(便ヘモグロビン) (3)血清検査:HBs抗原検査,HCV抗体検査,梅毒血清反応 (4)血液凝固検査:出血時間,APTT,PT,フィブリノゲン (5)胸部・腹部単純X線撮影 (6)腹部超音波検査 3.フォローアップに最低限必要な検査 (1)上部消化管内視鏡検査 (2)血液検査:RBC,Hb,血清総蛋白濃度,AST,ALT,LD,ALP,gGT, UN,クレアチニン,尿酸,Na,K,Cl 4.退院までに施行すべき検査 (1)上部消化管内視鏡検査(生検を含む) (2)血液検査:RBC,Hb,血清フェリチン (3)H. pylori感染診断 |
上部消化管内視鏡検査を施行する前には,問診や身体所見とともに少なくとも末梢血検査,臨床化学検査,血清検査は必要である。胃十二指腸潰瘍の診断がなされれば,H. pyloriの感染診断が必要となる。日本ヘリコバクター学会のH. pylori感染の診断と治療のガイドラインの抜粋を表3に示す。侵襲的検査法には迅速ウレアーゼ試験 ,鏡検法,培養法などがあり,非侵襲的診断法として,血清抗体測定,尿素呼気試験,唾液・尿H. pylori抗体測定,糞便中抗原測定などがあげられる。今回,H. pylori感染の診断方法として保険適用された検査法は迅速ウレアーゼ試験,抗体測定法,尿素呼気試験のみであるが,複数の検査法を用いれば精度はより高くなる。それぞれの検査法の長所と問題点を示すが,検査の特徴を熟知し除菌判定に慎重であれば,各施設ごとに利用しやすい方法を用いて判定して良いと思われる(表4)4)。
表3 H. pylori感染の診断と治療のガイドライン(抜粋)
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[H. pylori除菌治療の適応疾患] A:H. pylori除菌治療が勧められる疾患 胃潰瘍,十二指腸潰瘍 B:専門施設でのH. pylori除菌治療が勧められる疾患 低悪性度胃MALTリンパ腫 C:H. pylori除菌治療の意義が検討中の疾患 胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術後胃および胃癌術後残胃 過形成性ポリープ 慢性萎縮性胃炎 non-ulcerdyspepsia(NUD) |
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[H. pylori感染診断と除菌判定] H. pyloriの感染診断は除菌治療を前提として行われるべきである。したがって,H. pylori感染診断を除菌前の診断と除菌判定とに分けて述べる。 1.除菌前のH. pylori感染診断 (1)H. pylori感染の診断にあたっては,以下の検査法のいずれかを用いる(複数であればさらに精度が高くなる)。それぞれの検査法には長所や短所があるので,その特徴を理解した上で選択する。 (2)検査法 内視鏡による生検組織を必要とする検査法 @迅速ウレアーゼ試験,A鏡検法,B培養法 内視鏡による生検組織を必要としない検査法 @抗体測定,A尿素呼気試験 2.除菌治療後のH. pylori感染診断(除菌判定) (1)除菌判定は,以下の検査法のいずれかを用いて行われる(複数であればさらに精度が高くなる)。 (2)検査法 内視鏡による生検組織を必要とする検査法 @迅速ウレアーゼ試験,A鏡検法,B培養法 内視鏡による生検組織を必要としない検査法 @尿素呼気試験,A抗体測定 (3)除菌判定は治療薬中止後4週以降に行う。尿素呼気試験を含むことが望ましい。 |
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[治療] 除菌治療の第1選択薬:プロトンポンプ阻害薬(PPI)+アモキシシリン+クラリスロマイシンを1週間投与する3剤併用療法を第1選択とする。 補足 現時点での第1選択は以下のものである。 ランソプラゾール 30mgを1日2回(60mg/日・分2) アモキシシリン 750mgを1日2回(1,500mg/日・分2) クラシスロマイシン 200mgまたは400mgを1日2回(400〜800mg/日・分2) 上の3剤を朝,夕食後に1週間投与する。 |
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検査法 |
長所 |
問題点 |
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侵襲的検査 |