15.慢性肝炎又は肝硬変

加藤 眞三,石井 裕正

 

確定診断に要する検査(12)

 臨床所見:肝疾患による主な症状には,全身倦怠感,易疲労感,消化器症状(食欲低下,悪心,嘔吐,下痢,上腹部痛など),黄疸(褐色尿,皮膚の黄染),脳症(意識の低下や混濁),腹水,浮腫,吐下血,掻痒感などがあげられる。

 医療面接では輸血歴,飲酒歴,薬剤服用歴,海外旅行歴,かきなど生貝の摂取,家族の肝疾患などの情報を得ておく。上記の症状がある時や,身体所見で肝腫大,眼球結膜黄染,腹水,羽ばたき振戦などを認める時には,まず肝疾患の一次スクリーニングにはいる。

 外来にて通院中の慢性肝炎や肝硬変の患者が入院適応となるのは,3に示す状態などであり,通常慢性期の状態が安定している時には入院適応にはならない。

A肝機能障害の一次スクリーニング

 肝疾患のスクリーニングには,肝細胞の変性壊死,胆汁うっ滞,肝細胞の合成能,炎症反応の4項目をカバーできるように,それぞれの項目から1ないし2の検査を組み合わせて行う(3)

 少なくとも以上の項目の測定により血液生化学的に検出できる肝障害はほとんどがカバーされる。

 

1 肝障害の一次スクリーニング

 肝細胞の変性壊死

ASTALT

 胆汁うっ滞

T-BilALPgGT

 肝合成能

アルブミン,PT,コリンエステラーゼ

 炎症反応

gグロブリン(蛋白分画)

 

2 病態把握や鑑別診断に要する検査

●肝障害の診断と鑑別のためのスクリーニング

  ASTALT

  ALPgGT

  T-BilD-Bil

  総蛋白,アルブミン,コリンエステラーゼ

  蛋白分画,血小板数

●自己免疫性肝障害

 gグロブリン,IgGIgMIgA

 抗核抗体,LE細胞

 抗平滑筋抗体

 抗ミトコンドリア抗体,(M2抗体)

 抗LKM抗体

●肝炎の病因としてのウイルス関連マーカー

 急性増悪時

  HBs抗原,HBc抗体,

  HCV抗体,HCV-RNA

  IgM-HA抗体,

  IgM抗体;サイトメガロウイルス,

       EBウイルス

   

 経過観察

  HBe抗原,抗体

●慢性肝炎急性増悪時の鑑別診断を要する病態

 他のウイルスによる急性肝炎

  HAVHBVHCV

  サイトメガロウイルス,EBウイルス

 肥満や糖尿病,飲酒にともなう脂肪肝

 アルコール性肝障害

 自己免疫性肝疾患

 胆石や腫瘍による閉塞性黄疸

 薬剤性肝炎

 

●薬剤性肝障害

  好酸球数,IgE

  薬剤リンパ球刺激試験(DLST)

●腫瘤性病変のある時

  AFPPIVKA II

  CEACA19-9

●アルコール性肝障害

  ASTALT,尿酸

  gGTMCV(トランスフェリン微小変異)

 

 

3 外来慢性肝疾患患者の入院適応

 1)肝機能検査の急性の増悪時

  外来での治療(経口剤,強ミノ静注など)にもかかわらず慢性肝炎で

  ASTALT300500IU/l以上となった時

 2)インターフェロンなど積極的な治療開始のため

 3)初めての顕性黄疸(T-Bil2mg/dl)の出現時

 4)肝硬変患者で初めての肝性脳症,腹水の出現時

 5)外来の投薬などにてコントロールのつかない肝性脳症や腹水

 6)腫瘤性病変の疑われた時

 7)食道静脈瘤の出血時およびその治療のため

 8)その他(慢性肝炎や肝硬変の自覚症状が特に強い時など)

 

B原因の診断(1)

 1)慢性肝炎の急性増悪との鑑別

 現在わが国における慢性肝炎の70%以上がC型肝炎ウイルス(HCV)によるものであり,B(HBV)とあわせると90%近くを占める。慢性肝炎患者で急激な肝機能の変化が見られた時には,慢性肝炎の急性増悪だけでなく,他のウイルスによる急性肝炎,薬剤性肝炎,肥満,糖尿病,飲酒にともなう脂肪肝,アルコール性肝障害,自己免疫性肝炎,胆石や腫瘍による閉塞性黄疸,循環不全に伴う肝障害などとの鑑別が必要となる。

 2)ウイルス性肝障害の診断

 肝機能障害があり入院した患者では,HBs抗原,HCV抗体を測定し,HBVHCVの感染の有無をルーチンで検査する。HBs抗原が陰性であっても,HBVの感染をさらに否定するためには,HBc抗体の測定も行う。

 急性増悪時ではIgM-HA抗体も測定する。HCV抗体は急性期には陽性にならないこともありC型の急性の感染が疑われる時にはHCVPCR法にて測定する。さらに,説明のつかない肝障害の症例や異型リンパ球の増加やリンパ節を触知する例ではサイトメガロウイルス,EBウイルスのIgM抗体を測定する。

 3)薬剤性肝障害

 薬剤性肝障害の診断はあくまでも薬剤の服用歴の聴取と除外診断,肝外症状,文献的報告との関連などが主体であり,スコアーにより行う1)。肝機能検査の悪化と薬剤服用期間との時間的関係,服用中止後の肝機能検査の変化が診断には特に重要である。8週間以上の服用歴があっても否定する根拠にはならないこと,時には半年以上の服用後に起きることもあることに留意する。皮疹,発熱,関節痛,好酸球の増多,IgE高値などの肝外症状も参考とする。検査所見として,わが国ではリンパ球刺激試験(DLST)などが試みられ,陽性であれば起因薬剤の可能性は高いが,その結果が陰性であってもその薬剤を否定することはできない。

 4)脂肪肝

 肥満,糖尿病や飲酒歴のある患者で血中脂質が高く,ASTALTが軽度上昇した時には脂肪肝の合併を考える。脂肪肝でのコリンエステラーゼ値の高値は他の慢性的肝疾患では低値となるため鑑別に有用である。さらに,超音波やCTスキャンでの画像所見,食事指導や運動指導後の変化により診断が可能である。

 5)アルコール性肝障害

 アルコール性肝障害の診断には飲酒量の聴取が最も重要であり,同居の家族からも聴取する。肝機能検査ではASTALTのトランスアミナーゼの上昇,gGTの高値と禁酒後の肝機能の改善が重要な所見としてとらえられている。MCV高値,IgA高値,血清トランスフェリンの微小変異なども参考にする。

 6)自己免疫性肝障害

 女性で関節症状を伴ったり,トランスアミナーゼに比し胆道系酵素が特に高かったり,炎症反応が特に高いなどの症例では,自己免疫性肝炎,原発性胆汁性肝硬変(PBC),原発性硬化性胆管炎などの自己免疫性肝障害も疑う。その鑑別診断のためにgグロブリン,免疫グロブリン定量,抗核抗体,抗ミトコンドリア抗体,抗平滑筋抗体,ウイルスマーカーなどを測定する。自己免疫性肝炎は放置すると予後の悪い疾患であり,免疫抑制剤による治療が有効でもあるため鑑別しておくことは重要であり,治療開始前の最終的な診断には肝生検を必要とする2)

 7)黄 疸

 黄疸患者では溶血性のものと肝性のものに大きく分けられる。I-Bilが高く溶血が疑われる時には,血清ハプトグロビン値の低下や網状赤血球,LDの増加をみる。D-Bil高値の際には超音波検査にて,胆石,総胆管,肝内胆管,肝占拠性病変の有無をみる。超音波で胆管の拡張などの所見があれば,次の検査として現在では造影剤を使用しなくても胆管膵管像が得られ侵襲の少なMRI(核磁気共鳴法による画像検査)を用いたMRCP(MR胆管膵管造影法)が行われる。CTスキャンで胆嚢,総胆管や肝内胆管の情報も得られる。これらの検査を行った後,必要があればERCP(内視鏡的胆管膵管造影法)などの検査を行う。

 

       1 原因の診断

 

C程度の診断

 1)肝炎急性増悪時の重症度

 劇症肝炎様の重篤な急性肝障害の重症度判定には,トランスアミナーゼ(ASTALT)の高さ自体は余り参考にならず,脳症の有無(アンモニア値)T-BilD-Bil,プロトロンビン時間,コリンエステラーゼを重要な所見として測定する。

 2)肝硬変の進行度

 肝機能検査の中で肝での合成能は肝硬変の重症度や予後を知るうえで重要な所見であり,アルブミン,コリンエステラーゼ,プロトロンビン時間,総コレステロールなどにより評価する。さらに,総ビリルビン,ICG15分値(ICGR15),血小板数も参考とする3)。また,進行した肝硬変では肝性の耐糖能異常の合併も多く,FBSHbA1cまたはグリコアルブミンの測定に異常あれば糖負荷試験も行うことが望ましい。III型プロコラーゲンペプチド(PIIIP)IV型コラーゲン7Sなどの線維化マーカーも参考とする。

 門脈圧亢進症状のひとつである食道静脈瘤は内視鏡検査にてみる。以前に静脈瘤の指摘がなければ12/年,あれば34/年で行う。出血のため入院した症例,過去に出血歴のある静脈瘤の例とともに,出血歴がなくても静脈瘤の所見がF2RCサイン陽性の例では内視鏡的な静脈瘤硬化術などの治療の適応となる。

 肝性脳症の際には,意識レベルを把握し,羽ばたき振戦をチェックし,アンモニア,BTR(分枝鎖アミノ酸/チロシン比)またはアミノ酸分析も行う。

 腹水を認める時には,試験的腹水穿刺を行い,肉眼的所見(混濁),たんぱく量,LD活性など生化学的分析により漏出性か浸出性か,そして白血球数や培養により感染性(特発性感染性腹膜炎)か否かをチェックする。

Dインターフェロン(IFN)治療のための入院時

 C型慢性肝炎でIFN治療を行うには,まず,血液生化学検査,画像診断により肝硬変ではないことを確かめる。そのうえで,HCVのウイルス量をDNAプローブ法で,またHCVのセロタイプも測定し,IFNの効果や今後の予後に関する予測をした上で計画する。

E肝内腫瘤性病変による入院時

 ウイルス性肝硬変患者は肝癌発症のハイリスクグループであり,外来にて腫瘍マーカーとしてAFPまたはPIVKA IIを交互に定期的に測定する。レクチンとの結合性により分析するAFPL3分画が有用である。もし,一方が軽度高い時や増加傾向のある時にはそのマーカーを優先する。また,超音波検査も血液生化学的に異常がなくても34ヵ月ごとに経過をおって観察する。

 これらの腫瘍マーカーの明らかな高値や持続的な上昇を認めるとき,あるいは超音波にて占拠性病変が疑われる際には,さらに造影剤を使用したCTスキャンを行う。その後MRI,血管造影などの画像診断や超音波ガイド下の腫瘍生検へと進める。肝硬変では超音波で所見がなくとも1年に1度はCTスキャンを行う。

 

4 肝機能検査法の選択基準(1994)

*

 

 

 

  

  

肝細胞障害の診断

胆汁うっ滞の診断

重症度の判定

 

ドッグ

 

 

 AST(GOT)

 

 ALT(GPT)