22.甲状腺の悪性腫瘍

 

内 村 英 正

 

 甲状腺の結節を見たときに良性腫瘍か悪性腫瘍かを先ず鑑別しなければならない。悪性腫瘍の頻度は報告により色々であるが剖検時の検索では1%以下から18%という報告もあり正確には不明である。甲状腺の患者のみ扱っている伊藤病院における1340例の臨床症状,組織診断の成績では甲状腺の腫瘍性の疾患の頻度は腺腫様結節41.2%,腺腫様甲状腺腫28.1%,癌20.0%,嚢胞6.1%,腺腫3.9%,悪性リンパ腫0.7%の割合であり殆どは良性の結節性の甲状腺腫で悪性腫瘍の頻度は20%と多くはない。

 甲状腺の悪性腫瘍は組織学的には乳頭腺癌が最も多く全甲状腺癌の約80%を占めており次いで濾胞腺癌が1015%である。甲状腺髄様癌と未分化癌ではそれぞれ35%程度である。男女比は女性に多く1 : 51 : 10といわれる。

 診断にあたり良性か悪性の判定も重要であるが治療方針の決定は組織診断と相まって極めて重要である。

 甲状腺の結節の診断には超音波検査と穿刺吸引細胞診が有効であり殆どこれらにより診断可能であるが必要に応じて針生検や甲状腺シンチグラフィーを行う。CTMRIも症例によって用いられる。血液検査は一般には役にたたないがサイログロブリンを生成分泌する癌や甲状腺髄様癌などではカルシトニンやCEAカルシトニン関連ペプチドなどがマーカーとして用いられる。

A.乳頭腺癌

 甲状腺の癌の中でも最も多く80%を占める。年齢分布も小児から高齢者にわたって見られる。増殖が極めて遅いのも特徴である。急速な増大は未分化癌への変化を疑わせる。

 初診時の検査としては末梢血,生化学,血中甲状腺ホルモン,TSH,サイログロブリン等は一度は調べておくべきである。しかし,診断に際しての特異性は無い。超音波検査と甲状腺シンチグラフィーを行う。結節が実質性か嚢胞性を確かめる。また,腫瘍はヨードを取り込む(ホット)か取り込まない(コールド)かを確認する。更に,穿刺吸引細胞診を行って腫瘍の性質を確かめる。以下,図の手順に従って処置を進める。

 治療の原則は外科的処置である。手術の手技に関しては必ずしも意見は一致していないので専門書を参考にしていただきたい。

 全摘,亜全摘,葉切除或いは部分切除等があるが転移の有無や広がりにより決定される。

B.濾胞腺癌

 良性の腺腫との鑑別は細胞診,組織診によっても術前,術中,術後で一般に困難であるといわれる。女性にかつ高齢者に多い。血行転移もあるがヨードの取り込みがある例では放射性ヨードによる治療も有効である。

C.未分化癌

 最も悪性の癌の一つと言われる。高齢者に多く男女比は1 : 1である。通常分化型から未分化型へと移行するものと考えられている。臨床症状は激しく呼吸困難,反回神経の麻痺でさ声をきたし確定診断時には根治手術が不可能である事が多い。

D.髄様癌

 傍濾胞細胞(C細胞)由来の腫瘍である。カルシトニンを生成分泌する神経堤起源の組織であるが他のホルモンや蛋白も分泌する事があり腫瘍のマーカーとなることがある。甲状腺癌の約5%といわれ男女比は1 : 1である。

 散発性と家族性に発症する例がある。散発性のものは片葉性が多く家族性では必ず両葉に発生ししかも多中心性であるので甲状腺全摘が必要となる。家族性のものは遺伝形式はメンデル形式で常染色性優性遺伝である。

 超音波診断が有効である。細胞診でカルシトニンの免疫染色で確定診断が可能である。家族性の例では家族の検索も必要である。また家族性発症では多発性内分泌腫瘍(multiple endocrine neoplasia IIMEN-II)であるかを確かめる。そのためには遺伝子診断によりRET protoncogeneを調べる必要がある。

E.悪性リンパ腫

 甲状腺の悪性腫瘍の13%といわれる。非ホジキンリンパ腫でB細胞腫である。65歳前後に多く男女比は1 : 23程度で女性に多い。

 橋本病に合併する事が多い。急速に増大する甲状腺で頸部リンパ節腫大,反回神経麻痺によるさ声,呼吸困難,局所の疼痛を来す。また橋本病の合併により甲状腺機能低下症を認めることがある。吸引細胞診は診断に有用である。未分化癌との鑑別が問題となる。

 

   1 甲状腺腫瘍の診断

MEN-II  a:甲状腺髄様癌,褐色細胞腫,副甲状腺過形成
     b:粘膜神経腫,消化管神経腫,マーファン様体型

参考文献

 1) 井村裕夫, 他編 : 最新内科学大系13. 内分泌疾患 2.甲状腺疾患. 中山書店, 1993

 2) Braverman Utiger, et al eds : The Thyroid. 6th ed. New York : J. B. Lippincott Co., 1995

 3) 小原孝男 : 甲状腺腫瘍. 内科 80 : 857862, 1997

(平成133月脱稿)