|
29.慢性腎不全
島 田 久 基,下 条 文 武 |
慢性腎不全の確定診断には,腎機能低下の確認だけではなく,全身状態の把握や,原疾患の推定も合わせて行うことが必要である。
自覚症状は,軽症の慢性腎不全例では,夜間尿や労作時の動悸息切れ,浮腫などが見られるが,無症状のこともある。進行例では,食欲不振,嘔気,嘔吐などの消化器症状や,乏尿,呼吸困難,全身痙攣,不随意運動,意識混濁などが見られる。
慢性腎不全の確定診断は,血清のUN(BUN),Crの上昇を確認することでなされるが,筋肉量の少ない女性や老年者などでは,腎機能が低下してもCrがあまり上昇しない例もあり,Ccrの測定が重要である。全身状態の評価には,末梢血液検査,胸部X線写真,血液ガス分析などの検査が欠かせない(表1)。腎不全の原因疾患は多岐にわたり,鑑別のための検査を臨床所見に基づいて選択する(表2)。急性腎不全との鑑別には,原疾患の有無や最近の尿所見の経過,腎性貧血の有無,腎の萎縮の程度が参考になる。
■フォローアップに最低限必要な検査
慢性腎不全の原因が明らかで,腎不全の進行がゆるやかであれば,外来で経過観察が可能であるが,@原疾患が不明で,腎機能が進行性に低下するとき,A降圧治療が不十分のとき(1日蛋白尿が1g以上の中等度腎機能低下群では,60歳以下の場合,125/75以下が目標となる)などは専門医にコンサルテーションが必要になる。専門医への紹介はできるだけ早期に行うことが望ましいが,Ccrが30ml/min以下になれば,透析療法の教育,準備(シャント造設など)が必要であり,必ずコンサルテーションを行う。老人やリウマチ性疾患などで筋肉量の少ない場合には,Crが1〜2mg/dl台でもCcrが30ml/min以下に低下していることは稀ではなく,Ccrの積極的な測定が望まれる。
一般に,入院中は,週1ないし2回以上の血清生化学(UN(BUN),クレアチニン,尿酸,Na,K,Cl,Ca,iP)の検査を行う。感染症,食欲低下,腎毒性薬剤の使用,脱水の時や,降圧・利尿薬の種類や量を変更した時には,腎機能の急激な低下や電解質の乱れが起きやすいので,さらに頻回に検査を行う。体重増加や浮腫の増悪があれば,胸部X線写真や血液ガス分析で肺水腫,低酸素血症のスクリーニングを行う。外来フォローアップ中は,腎機能が低下するに従い,検査頻度も増やすことが必要であり,Crが3〜4mg/dl 以上(あるいはCcrが30ml/min以下)の例や腎機能低下スピードの速い例では,毎回診察時に血清生化学検査で腎機能を評価したい。体重の変化や浮腫の程度に留意し,胸部X線写真,血液ガス分析を行い,肺うっ血を早期発見するよう心がける(表3)。慢性糸球体腎炎,糖尿病などの原疾患のコントロールの評価も重要である。
透析導入のための入院時には,上記の検査に加え,腎性貧血や腎性骨異栄養症に対する検査も行っておく(表4)。透析導入後の慢性維持透析患者は,外来治療を行うが,フォローアップ検査として,透析効率や栄養状態の評価の他にも,心血管系,骨関節系,内分泌系,悪性疾患,感染症(特に結核)などの合併症のスクリーニングを定期検査に組み入れる(表5)。
|
検査項目 |
検査の主な目的 |
|
末梢血液検査(WBC#,RBC#,Hb#,Ht#,血小板数#) |
貧血の程度 |
|
血清生化学(総蛋白#,UN(BUN)#,クレアチニン#, 尿酸#,Na,K,Cl, Ca,iP,Mgなど) |
腎機能、電解質異常 |
|
胸部X線写真# |
肺うっ血,胸水,心拡大の有無 |
|
血液ガス分析 |
代謝性アシドーシスの程度,低酸素血 症の有無 |
|
#日常初期診療における臨床検査の使い方 基本的検査(案)1) の基本的検査(2)に含まれるもの |
|
|
検査項目 |
考えられる原疾患 |
|
尿検査(一般#,沈渣#),1日蛋白尿 |
慢性糸球体腎炎 |
|
尿中b 2ミクログロブリン,尿中NAG |
間質性腎炎 |
|
抗核抗体*,抗DNA抗体*,IgG,IgA,IgM,C3,C4,CH50 |
膠原病とくにSLE |
|
尿糖#,FBS,HbA1c*,眼底所見 |
糖尿病 |
|
MPO-ANCA* |
ANCA関連腎炎 |
|
クリオグロブリン* |
クリオグロブリン腎症 |
|
腎エコー |
多発嚢胞腎,閉塞性腎症など |
|
中間尿培養,排尿時膀胱造影 |
尿路感染症,逆流性腎症 |
|
下線は必須の検査 #日常初期診療における臨床検査の使い方 基本的検査(案)1)の基本的検査(2)に含まれるもの *慢性腎不全で保険適応のない検査 |
|
|
検査 |
入院 |
外来 |
|
血清UN(BUN),クレアチニン,尿酸,Na,K, Cl,Ca,iP |
1〜2/週 |
1/1〜2月(腎機能低下が進めばさらに頻回に) |
|
検血 |
1/1〜2週 |
1/1〜2月 |
|
胸部X線写真 |
1/月 |
体重増加あるいは浮腫増強のとき |
|
血液ガス分析 |
適宜 |
適宜 |
|
尿検査 便検査(ヒトHbを含む) 末梢血液検査(WBC,RBC,Hb,Ht,血小板数,WBC分画,網状赤血球*) 血液生化学検査(UN(BUN),クレアチニン,尿酸,Na,K,Cl,Ca,iP,Mg,b 2 microglobulin)[透析前後] IgG,IgA,IgM,C3,C4,CH50,Fe*,UIBC*,フェリチン*,Cu*,HBsAg,HBsAb*, intact PTH*,アルミニウム,オステオカルシン* ツ反*,心電図,腹部X線検査,血液ガス分析 胸部X線検査[透析前後] 心エコー*,腹部エコー,神経伝導速度* 骨X線検査*(頭蓋骨:2方向,手骨:普通の条件,軟線撮影,頚椎・腰椎:2方向, 骨盤,肩関節:正面,肘・膝・足関節:2方向) 骨塩定量*,眼底検査 |
*慢性腎不全で保険適応のない検査
表5 透析導入後のフォローアップのための検査(文献2)より一部加筆)
|
検査 |
検査項目 |
|
頻度 |
|
末梢血液検査 |
WBC,RBC,Hb,Ht,血小板数 |
透析前 |
2週ごと |
|
血液生化学検査 |
UN(BUN),クレアチニン,尿酸,Na,K,Cl,Ca,iP,Mg |
透析前後 |
1ヵ月ごと |
|
|
CRP,総蛋白,蛋白分画,AST(GOT),ALT(GPT),ALP, LD(LDH),総コレステロール,HDL-C,TG,amylase |
透析前 |
1ヵ月ごと |
|
血液ガス分析 |
透析前 |
3ヵ月ごと |
|
|
胸部X線検査 |
透析前後 |
3ヵ月ごと |
|
|
心電図 |
透析前 |
3ヵ月ごと |
|
|
特殊検査 |
Fe*,UIBC*,フェリチン*,intact PTH*,b 2 microglobulin |
透析前 |
3ヵ月ごと |
|
|
オステオカルシン*,HBsAg,HBsAb*,HCV,骨塩定量* |
透析前 |
6ヵ月ごと |
|
|
Cu*,CEA*,AFP*,CA19-9*,HbA1c*,血糖 |
透析前 |
1年ごと |
|
|
IgG,IgA,IgM,C3,C4,CH50,Free T3*,Free T4*,TSH* |
||
|
|
骨X線検査* |
||
|
|
神経伝導速度*,便検査(ヒトHbを含む),心エコー* |
||
|
|
身長測定,視力,眼底検査,ツ反* |
*慢性腎不全で保険適応のない検査
■退院までに施行すべき検査
Cr3〜4mg/dl以上での例では,骨塩定量,intact PTHの測定をしておくと,その後の腎性骨異栄養症の治療の目安になる。
参考文献
1) 日常初期診療における臨床検査の使い方 基本的検査(案) : 日本臨床病理学会「日常初期診療における臨床検査の使い方」小委員会 編, 1989
2) 下条文武 : 透析患者の検査と管理. 東京 : 中外医学社, 1999. p1〜280
(平成13年3月脱稿)