平成14年度学会賞(Bergmeyer-Kawai賞)は学会賞審査委員会の厳正な審査の結果、慶應義塾大学医学部内科・村田満講師(中央臨床検査部兼任)と決定した。本受賞は遺伝子診断学分野を含めた新しい領域の研究を対象としており、日本臨床検査医学会会員で前項に揚げた研究に意欲的に従事し、国際的に活躍している研究者に贈られる。

 今回、村田満氏の研究テーマは「動脈硬化と易血栓性の遺伝子診断」でなされた。動脈硬化症を基盤として発症する動脈血栓症は、心筋梗塞や虚血性脳血管障害の直接の原因であり、その発症には何らかの遺伝子素因が関与していることが示唆されていたが、実体については長らく不明であった。本研究では血栓止血学の基礎的知識を基に、血栓症との関連が予想されるsingle nucleotide polymorphisms (SNPs) を、候補遺伝子アプローチ法にて探究し、遺伝子型と血栓症の頻度、重症度、血栓形成部位特異性(脳、冠動脈、深部静脈など)の関係を患者ー対照試験で検討した。多くの施設との共同研究を通じて、冠状動脈疾患、脳血管障害、糖尿病の代表的合併症である大血管症、ならびに閉塞性動脈硬化症と関連するいくつかの遺伝子多型を明らかにした。また関連の見られた多型については試験管内で実験的にこれを証明し、さらに臨床的意義のある遺伝子多型につき効率的な遺伝子診断システム構築に努力を傾けた。
 これらの研究を通じて血栓症リスクの人種差、特に日本人におけるリスクの特徴が明らかにされてきた。新しい遺伝子多型を発見することは今後のオーダーメイド医療に欠かせないものであるが、多型の遺伝子検査が実際に臨床検査に利用されるには、まだ多くの問題点が残されている。本研究はゲノム情報を基にしたオーダーメイド医療に今後の臨床検査医学が大きく貢献する可能性を示した点で評価された。

 村田満氏は、長らく血栓止血学に関する基礎および臨床研究を続けていたが、平成8年頃より遺伝子多型の意義についての研究を開始している。この分野の研究を最も早く開始した研究者のひとりであり、現在でも我が国のこの研究領域をリードいる。国際血栓止血学会(International Society on Thrombosis and Haemostasisでは、その標準化委員会(Scientific Standardization Committee)のActive Contributorとして、ItalyのL. Iacoviello委員長のもとで日本を含むアジアの代表として活動している。平成9年より慶應義塾大学病院中央臨床検査部兼任となり、主任医師として検査部の日常業務、特に遺伝子検査を担当するとともに検査部の遺伝子研究を推進している。検査部医師や技師、および学内の各臨床科医師と共同研究グループを組織し、遺伝子多型研究に多大な成果をあげた。本研究は臨床検査医学での新しい局面を発展させるに意欲的で、創造的である貢献度の高い研究である。氏の研究実績と共に、これまでの臨床検査医学への貢献、検査専門医としての実績から鑑み、本研究の実現性を強く期待するものである。